早期に事業承継に取り組むべき3つの理由
事業承継丸ごと請負人の竹代です。
今回は、早期に事業承継に取り組むべき3つの理由について書きます。
※親族または親族以外の従業員等が承継するケースを想定しています。
(M&Aは想定していません。)
理由1.後継者の選定に時間がかかる
まずは中小企業白書のデータを見てください。
下の円グラフは、社長が後継者を選定してから了承してもらうまでにどのくらいの期間がかかったかを示しています。これによると、最も回答が多かったのは1~3年(42%)、次に多いのが3~5年(22%)、1年以内と回答した企業は20%でした。
社長が、「アイツを後継者にしよう」と心の中で決めていても、実際には本人にそのことを伝えて了承してもらう必要があります。社長の親族が引き継ぐ場合は、ある程度覚悟ができているかもしれません。
しかし最近は親族以外の承継が増加してきており、その場合はすんなり了承してもらえるとは限りません。場合によっては断られてしまい、思惑が外れるということも考えられます。そうなるとそこから新たな後継者を探すことになります。
このように後継者の選定には、思っている以上に時間がかかるのです。
理由2.後継者の育成に時間がかかる
後継者候補が決定したら、次は育成する必要があります。
後継者候補の多くは、現場の実務(営業や製造など)にはかなり精通しているケースが多いでしょう。
しかし経営者となると、現場の知識、経験だけでは不十分です。
経営に対する覚悟があるか
まず経営者に最も求められるものは、「経営に対する覚悟」です。
これがすべてのベースになりますので非常に大切ですが、実は一番身につけるのが難しいかもしれません。
「経営に対する覚悟」とは、すべてのことを「自責思考」で考えられるかどうかということです。自責思考とは、経営をしている中で起きるすべての事象を、他人や環境のせいにせず、自己の責任と考えることです。
経営をしていると、様々な問題が起こります。売上が上がらない、従業員が思い通りに動いてくれないなど。
今回の新型コロナウイルス感染症はその極めつけで、ここまではほとんどの方が想定していなかったと思います。
正直、新型コロナウイルス感染症のせいで売上が激減するのを、経営者の責任とするのはあまりに酷です。しかしだからといってコロナが悪い、政府の対応が悪いと言っていても仕方ありません。
そのような状況下で、じゃあうちはどうやって切り抜けるかを考えられるかどうかが重要ということです。
伝説の経営コンサルタントと呼ばれた一倉定先生は、「ポストが赤いのも社長の責任」と言われたくらい、経営に関する全責任を負う覚悟を経営者に伝えたそうです。
では次にこの覚悟をどうやって身につけるかですが、基本的には勉強させるしかありません。
社長自ら経営者の心構えを教えてもいいでしょうし、本やYoutubeなどの動画から学ぶのもいいでしょう。
また後継者塾や、経営者の勉強会に参加させるのもありです。
教わってすぐに覚悟が定まることはないかもしれませんが、正しい考え方をまず知るということが非常に重要です。
そこから様々な経験を経るうちに、自然と自責思考が身についていきます。
成功体験を積ませる
もうひとつ大切なことは、後継者候補に成功体験を積ませるということです。
経営者になるためには、猛烈なインプット(勉強)とアウトプット(行動)を両輪で回し続ける必要があります。
これを継続するには、その原動力となる積極性が必要となります。ただ成功体験がない後継者候補は、自己評価が低く、どうしても消極的になりがちです。
そこでどんなことでもいいので成功体験を積ませることで、小さな自信をつけさせましょう。方法としては、事業の一部を任せて成果を出させるとか、何か資格を取らせるなどが考えられます。
それを繰り返すことで、自己肯定感が高まり、もっと成長したいという好循環を生むのです。一度そのサイクルに入れば、あとは勝手にどんどん成長します。
ここでは、考え方や自信といったスキル以外の部分の育成について書きましたが、それ以外にも数字を読む力や、従業員とのコミュニケーションの取り方など、学ぶべきスキルはたくさんあります。
一般的に後継者の育成には5~10年を要するといいますので、じっくり腰を据えて取り組まなければいけません。
理由3.資金負担をできるだけ抑える
次に、資金面です。
事業承継では、経営面の承継とあわせて、株式の承継も必要となります。
株式の承継方法としては、相続・贈与・売買の3パターンがあり、それぞれ税金の負担や、買い取り資金をどうするか考えなくてはいけません。
親族が引き継ぐ場合
親族承継では、株価がある程度高い場合は、生前贈与で毎年少しずつ承継していくのが王道です。
毎年少しずつ贈与する理由は、一度に株式を移転させると、多額の贈与税がかかってしまうからです。
1年間に110万円までは、贈与税をかけずに移転できますし、贈与金額500万円までであれば、実質10%ほどの税負担で済みます。
このように少しずつ贈与する場合は、ある程度の年数が必要となるため、早目に事業承継に取り組む必要があるのです。
なおこれ以外の方法として、遺言によって相続時に移転させる方法や、事業承継税制を利用して納税猶予を受ける方法もあります。
これらのどれを使うかは、株価や相続人の状況などにもよります。
親族以外が引き継ぐ場合
親族以外が承継する場合、基本的に相続、贈与という選択肢は考えにくいです。
そのため売買による移転一択ということになります。
売買の場合は、後継者に株を購入するだけの資金がない場合が普通なので、融資を受けるか、役員報酬の増額によって購入資金を捻出することが必要です。
売買の場合も金額によりますが、複数年での取得になるケースが多いでしょう。
また毎年利益が出ている会社であれば、移転を先送りするほど株価が高くなり、後継者の資金負担が増加してしまうというデメリットもあります。
まとめ
以上、早期に事業承継に取り組むべき3つの理由でした。
事業承継は緊急性が低いため、つい後回しになりがちです。
その結果、後継者の選定や育成が間に合わず、廃業を余儀なくされたり、高額な税負担を強いられることがあります。
緊急性は低いが、重要なことにどれだけ取り組めるかが、会社の存続にとっては非常に重要となります。
まだ何も準備していない経営者の方は、是非真剣に考えていきましょう。